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[YUKIZURI in Morocco “モロッコでゆきずり”]マラケシュのジャマ・エル・フナ広場を見下ろすカフェで飲むミントティー。鮮やかな濃緑の葉にたっぷり砂糖を加えると、メンソールと軽いほろ苦さに甘さの加わった絶妙な香りが、仄かに顔を包んで辺りにたゆたう。これだけで一日の疲れが癒されるのがなんとも不思議。
先程まで広場の地面ばかりが見えていたというのに、いつのまにか何処からとも無く集まるジュラバ姿の夥しい人々。そして湯気と煙を燻らせる屋台。その中でも、ポツポツと小さな丸い切れ目を作りながら大道人が披露する芸と技。左手奥には本屋を意味するクトゥビアの塔が聳える。何回見てもピサの斜塔のように少し曲がって見えるので、そう口に出すと、必ずモハメッド・ランセリはムキになって否定する。観光馬車が通り過ぎてゆく中、茜色に染まった夕焼けもそろそろ終焉。赤い光線が僅かに差し込み、泥造り風の建物に吊り下がった草木染めのカーペットを照らし出すと、それらは幾重にも連なって極彩色の壁になる。
いくら食べても山が崩れるだけで、少しも減らないクスクスに降参し、ワイングラスを片手にバルコニーに出る。パレ・ジャメイから見る世界最大の迷路都市、フェズのメディナの眺望に圧倒される。巨大な擂り鉢の中央に見えるターコイズグリーンの傾斜屋根が目指すカラウィーンモスク。大体の見当をつけてホテルを出る。ギッザ門を右手に見て左折し、階段と坂道を下る。空は見えたり隠れたり。泥と油と香辛料と体臭が入り混じった特異な匂いが立ち込める。歩行者とロバと荷馬車しか行き交わない。たちまち時間と空間の観念を失うが、意外にあっけなくモスクに着く。白い制服に身を包みすっくと立つ門番。
しかし山登り同様、帰りが問題。アザーンが流れる中モスクの回りを一周する。サファリン広場。明るい空間に出でホッとする。小さい溝川に橋が架かる。迷路性もそれほどではないと思い始めたゆとりで骨董屋に上がり込む。たちどころに供されるミントティー。トゥアレグ族の銀製のナイフに目が止まる。鞘と柄に皮を張りトルコ石の粉が塗りたくられている。交渉の末買い求め、最も単純なブー・ジュールド門への道を尋ねる。
主人と分かれて僅か2分後、道を失う。いかんともし難くモスクに舞い戻る。しばしうろつくさなか、見知った男に出会う。彼の古道具屋の主人だ。また一杯ミントティーをご馳走になり、もう一度道を尋ねる。これで今度こそは、と思い込んだがまた2分、再び迷路の餌食。メインストリートでさえこの具合。周りの男達に道を尋ねるが英語が通じない。いや、チップを出さなければ通じないのだ。団体の観光客のグループに付いて行けばいずれは出られるだろうが癪だ。モスクの門番に恐る恐る聞いてみる。門番は黙って右手を上げて正面の細い道を指差す。貴重なご宣託をお受けしたと恭しく頭を下げて出発する。フェズは世界最大の迷路都市。一度入れば二度と出られない・・・・いや、かもしれぬ。
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