1998,99年と続いたヴェニスの撮影もいよいよ2000年で終わりになりました。この秋には、三冊目の写真集《Rite of Light III 2000》を出版し、写真展も開くことになっていたのです。モノクロームにカラーも加え、夥しい写真を撮ってきましたが、肝心のテーマが定まりません。所狭しと書店に並べられたカーニバルの写真集。これらを超えねば、否、超えずとも、新しい視点を切り妬かなければなりません。確固としたコンセプトを築けずに写真を撮り続けていた自分が情けなくなりました。しかし迷いに迷っていた考え方が、出発前にやっと定まったのは幸運だったというべきでしょうか。
ポイントは二点です。まず全てモノクローム写真とすることでした。この色彩溢れる華麗な祝祭は殆どがカラーの写真集で発表されていましたから、色に頼らない写真ということです。もう一つは、写真の中にいかにもヴェニスであるかのような風景は極力入れず、扮装する人間を中心に表現しようと決めました。“様”になり過ぎる写真は避けたのです。
極寒の季節のヴェニス。扮装者は金襴緞子の装束を着け、仮面を被り手袋をはめ、足も手も、全てが覆われていましたが、その中で外気と触れる部分が一箇所だけあることに気が付きました。それが眼の存在です。仮面に穿たれた眼。そしてその奥に潜む生身の眼。この四つの眼に着眼し、テーマ《ヴェニスの眼》が決まったのでした。